来院までの経緯
娘さんが以前から当院の整体施術を受けており、その経験から「上野は腕がいい」という印象を持っていました。
母親の状態があまりにも深刻で、これまで通った整体院では結果が出なかった。
そこで娘さんが「当院ならもしかしたら」と判断し、紹介という形で来院されました。
来院前にすでに3院の整体院を受診していました。
そのうち2院はそれぞれ10回前後通い続けましたが改善が見られず、もう1院は初回を受けた時点で「ここでは無理だ」と感じて1回で終わっています。
リハビリや他の治療との併用もなく、正直なところ気功に強い期待を持っていたわけではなかったと思います。
「他に選択肢が残っていなかった」という状況での来院でした。
初回時の状態
来院された時の状態を見て、正直これは相当難しいケースだと思いました。
杖をついていても、それだけでは歩けないのです。
杖をつきながら、さらに娘さんの腕に掴まって、それでやっと進めるという状態でした。
一歩踏み出すたびに激痛が走るため、歩幅は極端に小さくなっていました。
おそらく5センチか、それ以下だったと思います。
特に問題だったのは左側への荷重でした。
左に少しでも体重をかけようとすると、ずきっとした鋭い痛みが走って体が止まってしまう。
自然と右側に体重を逃がしながら歩くような状態になっていましたが、それでも一歩ごとに痛みが出る。
足全体がこわばって動かなくなっている感覚も強く、本人としては「足が自分の足じゃないみたいに固まっている」という感覚だったようです。
階段については、左膝をほとんど持ち上げることができませんでした。
通常、階段を上るには膝を一定以上屈曲させて足を持ち上げる必要がありますが、それができない。
段差の前に立っても足が上がらない状態でした。
初回時の見立て
私がまず考えたのは「どこまで回復できるか」ではなく、「回復できない部分がどれだけあるか」という点でした。
腰椎の手術を2回、股関節の手術を1回受けているということは、それだけ体の構造に手が入っているということです。
手術によって固定された部分、癒着が進んだ部分は、どれだけ施術をしても動くようにはなりません。
気功は筋肉や神経系の緊張を緩めることはできますが、骨や関節が構造的に固まってしまっているものを物理的に動かすことはできない。
だからこそ最初の段階で「手術による不可逆的な変化がどこまで進んでいるか」を慎重に見極める必要がありました。
足のこわばりや痛みの原因については、「手術後に庇い続けた結果として生じた局所的な代償パターン」ではないと判断しました。
もちろんそういう側面もあります。
しかし根本にあるのは、体全体の歪みによって脊柱への負荷が慢性的にかかり続けている状態だと見ました。
背骨には本来、首・胸・腰にそれぞれ生理的な湾曲があります。
その湾曲があることで、体にかかる重力や衝撃が全体に分散されます。
しかしこの方の場合、手術を繰り返したことで体の軸が崩れ、本来分散されるべき負荷が特定の部位に集中し続けている状態になっていました。
病院はその「集中した圧によって傷んだ部位」に対処します。
脊柱管狭窄であれば狭くなった部分を広げる、変形が進んでいれば固定する。
それは正しい処置です。
しかしその処置をしても、「なぜそこに圧が集中したのか」という根本の構造は変わらないまま残ります。
結果として、手術をしても痛みが残り続ける、あるいは別の部位に新たな問題が出る、ということが起きる。
今回のケースはまさにそういう状態でした。
私がアプローチしたのは、その負荷の分散を体全体から整えることでした。
腰や股関節だけを見るのではなく、頭頂から足の指先まで全身を対象にして、体全体のバランスと圧の抜け方を変えていく。
それが今回の施術の軸でした。
施術の経過(週1回・全6回・対面・1回45分前後)
初回施術後
施術を終えてすぐ、本人に立ってもらいました。
歩いてみてくださいと伝えると、来た時より明らかに足が動いていました。
歩幅が広がっています。
おそらく5〜10センチは増えていたと思います。
足のこわばりが緩んで、動かしやすくなったという感覚が出てきたようでした。
痛みについても変化がありました。
範囲が狭まり、強さも来た時の6〜7割程度まで軽減しました。
特に電撃のように走る鋭い痛み、ずきっとした激しい痛みはほぼ半分になっていました。
ただ、私はこの時点でまだ楽観はしていませんでした。
1回の施術でこれだけ変化が出ることは珍しくありません。
問題はこれが継続するかどうか、積み重なるかどうかです。
2回目施術後
2回目が終わった時点で、変化の方向性が見えてきました。
痛みの強さが下がり続けているのに加えて、「痛みが出てくるまでの時間が延びた」という変化が現れ始めていたのです。
これは重要なサインです。
単に痛みが一時的に緩むだけでなく、体が変化した状態をある程度保持できるようになってきているということだからです。
4回目施術後
この回が一つのターニングポイントでした。
杖をついた状態での歩行中は、ほぼ痛みが出なくなっていました。
それだけでも十分な変化ですが、私が注目したのは「痛みの質が変わった」という点です。
股関節に走っていた激しい痛みが、膝周囲や大腿部のしびれ感に変わってきていたのです。
これは悪化ではありません。
むしろ回復のプロセスとして自然な変化です。
深いところにあった強い症状が表層に上がってきた、不調の「深さ」が変わってきたと判断しました。
こういう変化が出てくると、あと何回かで大きく変わると確信します。
5回目施術後
しびれの範囲がさらに縮小しました。
4回目の時点では膝周囲や大腿部全体に広がっていたしびれが、明確に局所化されてきました。
残っている不調のエリアが絞られてきた段階です。
体が回復の方向に向かっている流れが、かなりはっきりしてきた時期でした。
6回目施術後
6回目の施術を終えた時、痛みもしびれも訴えとしては消えていました。
残っているのは股関節周囲の直径数センチ程度の違和感のみ。
本人の言葉を借りると「痛いとかしびれるとかじゃなくて、なんかちょっと気になる感じ」という程度になっていました。
歩いてもらうと、杖なし、娘さんのサポートなしで、何とか歩けています。
歩行時の不安定感も消えていました。
階段はまださすがに無理ですが左膝の挙上も右と同程度まで回復しました。
初診時に最も懸念していた「手術による不可逆的な制限」については、6回終了時点での状態から、機能的な回復余地は十分にあったと判断しています。
手術によって体の構造に手が入っていても、それが即ち「もう動かない」ということではない。
体全体の歪みと負荷のかかり方を整えることで、残っている機能を最大限に引き出すことはできる。
今回のケースはそれが確認できた症例でした。
まとめ
腰椎2回・股関節1回の手術歴を持ち、3院で改善が見られなかった70代後半の女性が、週1回・全6回の気功施術で杖ありでしびれ痛みなしで歩行可能に
階段の高さほども上がらなかった左膝も上がるようになりました。
手術歴があるからといって、必ずしも「これ以上は回復できない」ということにはなりません。
どこに問題の本質があるかを見極めて、そこにアプローチできるかどうかが結果を左右します。
※本症例は個人の経過であり、すべての方に同様の変化が現れるわけではありません。
その後の報告と考察
6回目の施術を終えた時点で、本人の状態は安定して改善に向かっていました。
杖ありでは痛みもしびれもほぼ消え、杖なしで歩ける状態まで。
そのため、6回終了後に初めて2週間の間隔を空けました。
それまで毎週来ていた方が、初めて空けた期間でした。
その2週間の間に、病院の検診があったようです。
届いたLINE
「左の股関節がかなり悪くなっているとのことで、来月に手術することになりました。次の予約はキャンセルでお願いします。今までありがとうございました」
という内容でした。
院長としての見解
正直に言います。
施術で改善していた部位は左股関節でした。
今回手術することになったのも左の股関節です。
「左股関節がかなり悪くなっている」という医師の言葉と、「施術を受けて楽になってきている」という本人の体感が、同時に存在していたということです。
画像所見と症状は別物です。
レントゲンやMRIが「悪化している」と示すのは構造の話です。
痛みが出るかどうかは、その構造にどれだけ負荷がかかっているかによって決まります。
同じ程度の変形でも、体全体のバランスが整っていれば症状が出ない人はいます。
逆に軽微な変形でも、特定の部位に負荷が集中し続けていれば痛みは出る。
施術を通じて体全体の負荷の偏りが変わってきていたのであれば、楽になっている最中に手術を選ぶ必要があったのかどうか、私には疑問が残ります。
もちろん、癌や骨折、神経への強い圧迫など、緊急性のある状態は話が別です。
待っている時間がない場合もある。
しかし変形性の疾患については、画像が悪くても症状が改善に向かっているなら、その方向をもう少し見てもよかったのではないかと思います。
手術は体に不可逆的な変化をもたらします。
固定した部位は戻りません。
「楽になってきている事実」と「画像が悪いという診断」が同時にあった時、どちらを優先するか。
それを判断するのは本人です。
私が決めることではない。
ただ、こういうケースは珍しくないということは伝えておきたいと思います。


